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2016.06.29

【セミナーレポート】ビジネスをさらに深化させる ニューロマーケティングの 可能性とは?

ビジネスをさらに深化させる ニューロマーケティングの 可能性とは?

LABOLISでは、脳波や脳血流などの生体機能計測装置を導入して課題発見力や提案力の向上を図りながら、脳科学者やニューロマーケティングの専門家とのネットワーク構築に取り組んでいます。2016年の3月には、京都大学で開催された「第18回日本ヒト脳機能マッピング学会」に協賛し、「ニューロマーケティングのこれからの展望と課題」と題するセミナーを共催しました。

座長挨拶 日本のニューロマーケティングを進展させるために

国際医療福祉大学教授 中川 雅文 先生[博士(医学)]

 ニューロマーケティングは、脳科学の知見を活かすマーケティングの手法です。初めて活用されたのは、2002年。映画「ダイ・アナザーデイ」を通してでした。言わずと知れた大人気シリーズ「007」の20作目として公開されたこの作品は「バイ・アナザーデイ」の異名をとるほどのマーケティング効果を生みました。作中に特定の車や腕時計、コンピューターなどを、何度も印象的に登場させることで、商品の魅力を強烈に印象付けたのです。この映画を見た後、たくさんの人が衝動買いに走ったと言われています。

 現在、欧米では産学連携によるニューロマーケティングの活用が進められ、アメリカでは「ニューロマーケティングサイエンス&ビジネス協会(NMSBA)」が精力的に活動しています。一方、日本の現状はどうでしょうか。「応用脳科学コンソーシアム」という組織があるものの、現在の参画企業数は60社に満たないほど。まだまだ、日本のニューロマーケティングは発展途上といえるでしょう。

 そこで本日のセミナーでは、次の3つの課題を皆さんと考えていきたいと思います。「ビジネスはなぜ脳科学に興味を示しているのか。また、脳科学はビジネスの何を変え始めているのか。今後、産学連携はどう進め社会に何をコミットしていくべきか」。産学の垣根を超えて意見交換を深めましょう。

ニューロマーケティングで消費者の行動の根本要因を突き止める

株式会社ニューロ・テクニカ 代表取締役社長 細野 晴義 氏

 マーケティングプランナーとして日々顧客のレスポンスと売り上げを向上させるために策を練っている私にとって、ニューロマーケティングは非常に魅力的です。マーケティングの最終目標は、販売の自動化。つまり、勝手に売れる状況をつくることです。そのためにはマーケティングリサーチが欠かせないものの、従来のマーケティングリサーチは、いくつかの課題を抱えています。

 最大の課題は、成功率の低さです。例えば、年商350億円ほどのある会社には代表的な商品が2つあるものの、現在稼働していない商品コードは100以上。マーケティングリサーチを行った上で商品を売り出しているにもかかわらず、2%しか成功していないのです。2%というのが極端な例だとしても、「マーケティングリサーチの精度は10%」というのが我々マーケターの常識です。どんなに知恵を絞ってリサーチを行っても、実際に売れる商品は10%に満たないと言われています。

 アンケートやグループインタビューなど、企業も色々な手法でマーケティングリサーチに取り組んでいるものの、なかなか効果が上がらない。その理由には主に、次のことが考えられます。

 我々マーケターが設定する設問の多くは、レトロスペクティブなものが中心です。会社としてお金を出してリサーチを行う以上は、ある程度の結果を出さなくてはいけないという事情から、例えば「赤い靴が売れている」といった、既に明らかな事実を再確認するリサーチになりがちです。それは状態の把握に過ぎず、売り上げにつなげるのが非常に難しい。しかしニューロマーケティングでは、「どうして赤い靴が売れたのか」を突き止めることが可能になります。

 実際、トッパンフォームズが行った架空のカタログに対する脳科学実験では、消費者のポジティブな反応を引き出すにはどうすればよいのかという具体的な改善策を見出すことができました。ニューロマーケティングによってマーケティングリサーチは、消費者の行動の根本原因を把握するものへと進化するのです。

 しかし、ニューロマーケティングへの潜在的な需要がありながら、活用する方法が分からないという企業は非常に多い。そこで求められるのが、3つの機会の提供です。まず必要なのは、マーケターに対する脳科学の啓蒙の機会です。それから、マーケターが脳科学者と接触する機会も必要です。そして実際に研究を行う際には、倫理審査の機会も求められます。

 こうした課題が解決されれば、ニューロマーケティングは今よりもっと活用されるでしょう。

ビジネスにおけるコミュニケーション課題を脳科学の知見を通じて解決する。

企画本部マーケティング部  LABOLIS調査研究グループ 担当課長 落合 俊行

 当社は企業と消費者とのコミュニケーションデザインをクライアント企業にご提案し、その実行支援を行っています。誰に、いつ、どういう形で、どこで、何を伝えていくのかというストーリーづくりをする為に、必然的に「人はどのように情報を認知して、記憶して、行動に至るのか」を理解する必要性があります。

 これまで我々が取り組んで成果を挙げているのが視線計測などの生体機能計測です。科学的アプローチによってビジネスフォームやダイレクトメールがどう読まれているのかを分析しながら、デザイン改善に役立ててきました。

 そして現在は脳血流や脳波の生体計測にまで積極的に取り組むようになってきています。例えば、縦書きと横書きとではどちらが読みやすいのかを検証したある実験で、被験者の視線が文字よりも人の顔写真に集まるという結果が出ました。なぜそうなるのか、我々には想定外でしたが、脳血流と視線を計測し統合的に解析することにより、その理由が「シミュラクラ現象(人の視線は、顔や顔に似たものに集まる現象)」にあることがわかってきました。こうした経験から、より深く「人を知る」ために脳科学のアプローチは非常に有効であると考えています。

当社では、脳機能計測実験やこれまでのクリエイティブノウハウを積み上げた知見を、『フォームズクリエビ』というコミュニケーションデザインのノウハウ集として整備しています。これは社内のクリエイティブスタッフ間で専門性の高い科学的エビデンスとして共有し、組織としてのクリエイティブ力を向上させています。クリエイターの感性だけでなく、科学的に実証されたヒトの情報認知ノウハウも活かすことでより普遍的なデザイン開発へと結び付けています。

 また、当社が持っている科学の知見を広くクライアント企業に役立ててもらうため『DM点検パック』というサービスも行っております。これは、100以上のチェック項目からDMの良し悪しを評価することで、そのDMの課題を洗い出し、コミュニケーション設計やデザインの改善に役立ててもらうためのものです。

 さらに今後は、インビジネスの領域でも脳科学の知見を活かせないかと検討しております。例えば、コールセンターでのシニアの方とのコミュニケーション改善や、ホワイトカラーの生産性向上という課題を、脳科学から解決する糸口を探っています。

 当社は今後も専門家とのネットワークを活かしてニューロマーケティングへの取り組みを強化し、「人を知る」知見を深めていきたいと考えています。そうすることで、ユニバーサルなメディアとパーソナルなメッセージングの在り方を深化させ、広く社会に貢献していきます。

NIRS信号計測により「快・不快」情動を識別する

日本大学 生産工学部教授 綱島 均 先生[博士(工学)]

 私は現在、NIRS信号計測により人間の情動を識別する研究を行っています。

 きっかけは、ある時「好き」の情動が喚起されると脳活動に変化が起こることが分かり、快・不快の情動を脳活動から識別できるのではないかと考えたことでした。

 実験にはIAPS(国際感情画像システム)の画像を使用しました。快の刺激が強い画像と不快の刺激の強い画像をそれぞれ選び、それらの画像を見ている時の被験者の前頭葉の脳活動をマルチチャンネル型NIRS装置を用いて計測しました。結果、不快画像を見た時には比較的明確な信号が計測されるのに対して,快画像を見た時の活動は、不明瞭でした。その原因は、IAPSの画像が日本人にとって共感を呼べるような快画像ではないことにあるのではないかと推測し、今度は被験者自身に自分が快と感じる画像を選定してもらって実験をしました。

 その結果、快の情動が喚起された時には前頭葉の中央部でオキシヘモグロビンが上昇し、不快の情動が喚起された時には低下することが分かりました。そこから今度は反対に、脳活動から「今この人が快と感じているか不快と感じているか」の識別を,機械学習を用いて試みました。

 しかし、「快か不快か」は高精度に識別できるものの、レスト、いわゆる快と不快の間の「中性」を識別しようとすると、精度が一気に低下したのです。

 その後に行った動画実験では、それぞれ30分間の快動画、不快動画を交互に見てもらい、NIRS信号を計測しました。この結果、不快の情動が喚起された時、前頭葉全体でオキシヘモグロビンが上昇する傾向があるという、静止画像実験とは異なる結果が出ました。

 これらの実験を通して、不快の情動が喚起されたときの脳活動は非常に高精度な識別ができる一方、快・中性の識別には課題があることが分かりました。快の質的な違いを識別することが、今後の課題といえるでしょう。また、脳の計測チャネルを変えても識別精度は極端に変化しないことから、少ないチャンネルのウエアラブルNIRSでも、情動の識別が可能かもしれません。これについても、今後の実験で確認していく予定です。

 心拍数などのほかの生体信号に比べて、NIRSの方が情動の変化を識別しやすいことも分かりました。今後は,ウエアラブルNIRSを用いて,情動を識別できるシステムを開発し、製品開発に応用したいと考えています。

産学連携によるニューロマーケティングの進展に向けて脳科学者に求められるもの

東北大学助教 菅野 彰剛 先生[博士(医学・工学)]

 現在、脳科学者に限らず研究者全般にとって研究費の獲得は大きな課題となっています。そこで、希望を託せるのが産学連携です。

 日本の産学官連携の成功事例の最たるものは、LEDの開発研究です。およそ5.5億円の出資から始まったこの研究の成果は社会に大きなインパクトを与えた上、3兆6千億円もの経済効果をもたらしました。私の所属している東北大学の川島隆太先生も産学連携で脳トレのゲームなどを販売しており、国内外で1千万本以上の販売実績があります。

 我々研究者の関心領域だけでなく、企業にとっても有意義な研究を展開しながら産学連携を進めていけば、研究を通じて社会へ貢献できる可能性はさらに広がることでしょう。

 一方で、産学連携を進める時には倫理への考慮も忘れてはいけません。実験にあたっての倫理審査の必要性は、我々科学者にとっては常識ですが、それをきちんと企業の方へ説明する必要があります。加えて、実験に関わるあらゆる条件設定において、公平性が担保されるよう気を配る必要もあります。

 例えば、「ハワイと温泉、どちらに行きたいですか?」とういうアンケートを、高齢化の進む私の地元・宮城県白石市の商店街と、東京の繁華街とで行えば、結果が違ってくるのは当然ですよね。地方のお年寄りなら「海外よりも、近場の温泉でゆっくりしたい」という回答が多いでしょうし、都会の若者なら「ハワイでマリンスポーツを楽しみたい」などの回答が多数を占めるでしょう。このように、実験の条件設定が、結果に与える影響は非常に大きいのです。結果の意図的なコントロールを防ぐためにも、我々研究者は、適切な条件設定にこだわらなくてはなりません。

 また、ニューロマーケティングを産学連携で進めていく際には、我々研究者が「マーケティング」なるものを理解する必要もあるでしょう。それを理解する足がかりになるのが、コカ・コーラとペプシコーラとの比較実験です。

 コカ・コーラとペプシコーラは、どちらがより消費者に選ばれているのか。それを明らかにするため、脳科学はもちろん、心理学の分野にまで踏み込んだ研究がこれまでに多数行われています。そして、数々の実験が明らかにしたのは、消費者は味よりもブランドイメージを重視しているということです。企業がマーケティングを重視する理由はここにあります。

 今後、ニューロマーケティングにおいて産学連携を進展させるためには、研究の倫理性を考慮しながら、科学的アプローチで商品の強みを評価することが、我々脳科学者に求められるでしょう。

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