FOCUS of LABOLIS

2016.08.03

おもてなしの国は、 外国人の“目に優しいおもてなし”ができているか? <前編:ピクトグラム大国の実力を測る>

●2020年に4000万人、8兆円のマーケット誕生!?

 少子高齢化、人口減少によって多くの市場がシュリンクするなかで、期待を集め続けるのがインバウンド(訪日外国人)市場だ。
 日本への訪日外国人旅行者数の伸びはかなり凄くて、平成27年度版観光白書によれば、2011年に620万人だった訪日外国人数は、あれよあれよと増えて2015年には2000万人をうかがう1973.7万人に達している。約4年で3倍強である。2015年の経済効果は、3兆4711億円まで達している。

 この2000万人という数字、当初は2020年の目標だった。それを5年も前倒しで達成しているのだから、その勢いはまさに破竹と言っていいだろう。この数字を受けて観光庁は新たな目標を掲げている。東京オリンピック開催時の2020年に4000万人、8兆円。2030年には6000万人、15兆円のマーケット創出を企む。威勢のいい数字だがこれまでの実績を踏まえると不可能ではないだろう。

●世界にはなんと6900の言語がある!

 そこで気になるのが、受け入れのインフラである。外国人にとって果たして日本は観光しやすい、滞在しやすい場所なのかということだ。
 例えば、東京近郊のショッピングモールの店内放送は日本語に英語、さらに韓国語、中国語が標準セットになっている。東京や大阪近郊の駅でも駅名は英語の他、中国語やハングル表記が増えている。インバウンド対応が各地で浸透しているなぁと感じるところだが、しかし世界は広い。

 世界的な言語百科辞典「Ethnologue」によると世界で使用されている言語数をなんと約6900としている。無論、これだけの言語使用者が全てやってくるわけでない。としても、数多の言語に対応するのは不可能だ(将来AIがそれを可能にしてくれるかもしれないが…)。
 では、どんどん増える外国人の方にどのようにスムーズに観光やビジネスをしていただくには、どんな手があるのだろう。

●ピクトグラムを国際化したのは52年前の東京オリンピック

 実はこの手掛かりになるのが、52年前に開かれた前回の東京オリンピックで使われたピクトグラムである。ピクトグラムとは、何らかの情報や注意を1つないし複数の図記号の組み合わせで表したサインのこと。言葉を使わず色と形だけで表示するため、どの国の人にでも理解しやすい。

 前回の東京オリンピックでは、競技表示に初めてピクトグラムが使われた他、トイレや非常口などの案内表示のピクトグラムもつくられた。ここで創作された案内表示のピクトグラムの多くが今なお世界各地で使われている。その意味で1964年は国際ピクトグラム元年であり、日本は国際ピクトグラムの発祥地と言ってもいい。
 そのピクトグラムも52年が経ち、当時と比べられないほどの外国人が訪れるようになった現在、果たして十分な理解を得られているのだろうか。
 そんな不安や疑問が湧いたのか、ここに来て2020年の東京オリンピックに向けた、ピクトグラムの見直しが官民一体となってあちこちで始まっている。7月7日には担当官庁と鉄道会社などが参加した初会合が開かれている。
 日本では、先のオリンピックを機に、国として「この意味を表す表示にはこれを使ってください」というJIS規格(日本工業規格)のピクトグラムが整理されている。所管の経済産業省は、今回の見直しの一環として既存の140点のうち約70点の改善と、新たなピクトグラム約40点を設定する予定という。

●日本のJIS規格ピクトグラムは理解度高し!

 実はLABOLISではこうした動きに先駆け、実際に在日外国人にあたって、現在使われているピクトグラムの理解のしやすさを調査している。
 調査に協力してくれたのは、いずれも在住1年以上10年未満の20代から30 代の中国出身5名(男性3名、女性2名)と米国出身5名(男性3名、女性2名)の計10名。

 使用したピクトグラムは、「水飲み場」「更衣室」「乳児用施設(おむつ交換台がある)」「忘れ物取扱所」「クローク」「手荷物託配」「靴を脱いでください」「自然保護(観光・文化施設)」というメッセージを表したJIS規格のピクトグラムである。

ピクトグラムの正答者数

 いずれも、どのような場所で使用されるかというシーン設定をした上で、回答をもらった。結果は正答者数10名が「水飲み場」と「乳児用施設」。正答者数9名が「忘れ物取扱所」「靴を脱いでください」。同じく8名が「更衣室」。7名が「手荷物託配」。2名が「クローク」。1名が「自然保護」となった。
 ただ、「クローク」と「自然保護」は日程の関係で被験者の絶対数が足りなかったので、参考値としてもらいたい。

 さすがにJIS規格に準じたピクトグラム、理解度が高かった。
 ただ「手荷物託配」については、アメリカ出身者が全員正答だったが、中国出身者は、「手荷物託配」の利用習慣が少ないためか、正答率が低かった。図記号のバッグの形にも注文が付いている。表示されているバッグはビジネスバッグなので、車の図記号とセットだと、空港などの「ビジネスマンが使う乗り場」と解釈した人もいた。どんな鞄の図記号かで解釈が変わってくることは留意したほうがいいだろう。また車の形が託配などでよく使われるワンボックスカーとなっていたことで、手荷物の託配だと認識した人もいた。
 また「クローク」の正答率が低かったが、これはそもそも母数が少なかったこともあるが、クローク自体が欧米文化であるため、中国出身者には馴染みが薄いこともあったようだ。使用した図記号がハンガーというのも混乱を招いたようだ。「なんで(服がかかってない)ハンガーだけなんだろう? 鞄だけのほうが分かりやすい」(中国出身)
 

●モチーフとなった鞄の形が違うだけで、意味が違ってくる

 視認性に優れたピクトグラムは、多くの文化・慣習、言語の違う外国人からも理解されやすい。訪日外国人が増え続ける現在、視認性の高いピクトグラムの展開は、誤解をなくし、コミュニケーションを促進させる。
 8兆円、15兆円と増大する成長市場を取り込むためにも、是非活用したいところだ。

 今回の調査結果から、ピクトグラムを作成するに当たってどのような点を考慮すべきかが見えてきたので挙げてみよう。

ピクトグラム作成時のポイント

1. コアメッセージを明確に定義すること
  • 何を伝えるのか(場所の案内なのか、禁止事項なのか、注意の喚起なのか)
  • 見た人にどんな行動を期待するのか(靴を脱いでほしいのか、履いてほしいのか、丁寧に扱ってほしいのかなど)
  • 状況・エリアの選定(どこで使われるべきで、どこで使っていけないのか)
2. メッセージを象徴する適切なモチーフを使う
  • 「手荷物託配」のモチーフでは鞄の種類で捉え方が違った。適切なモチーフでないと、ピクトグラムは理解されず、別の意味に解釈されることがある。
3. 適切なモチーフであっても、文化の違いや、経験の有無によって理解されなかったり、誤解されることもある
  • 靴を脱ぐ習慣がない、託配サービスがない、フロントに物を預ける習慣がないなど、日本人が適切だと思っていても、その文化や経験がない人にとっては、認知してもらえる工夫が必要。
4. ピクトグラムは掲示される場所によって異なった解釈がなされる場合がある
  • 更衣室については、「ランドリー」「洗濯室」などの声もあった。また「靴を脱ぐ」というピクトグラムについては、「靴を間違えるな」という意味にとったケースも。
5. 伝えるべきか否かを吟味する
  • あくまで理解の補助ツールなので、正確な意味を伝達する必要がある場合は、使用しないという選択もある。医療機関や安全に関わる行為は特に注意すべき。

 今回は、回答者が長期滞在者だったため、正答率が上がっていると考えられる。短期旅行者を対象とした場合は、正答率は下がるだろう。故に短期旅行者向けにはなおさら「どこで、何をしてもらいたいのか、何をしてはいけないのか」をしっかり伝えられるピクトグラム計画が必要となってくるはずだ。

>後編:外国人に分かりやすい申込書デザインは?

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