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2017.04.21

「DM week 2017」無意識に「その気」にさせる メカニズム

無意識に「その気」にさせる メカニズム

DM week 2017 セミナーレポート

「好きだから選ぶ」のではなく「選ぶから好き」。
認知科学の最新研究から得られる知見のダイレクトマーケティングへの応用可能性やいかに?

「第一印象」と「好みの形成」

 第一印象というのは、認知心理学の研究ではわずか10分の1秒、まさに「0秒コミュニケーション」で決まるといわれています。そしてその第一印象は、その後なかなか変えられないものです。

 人間にとって「好み」や「好き嫌い」は、常に意思決定の基本になるものなので、例えば「背の高い人と低い人」「水のたくさん入ったグラスと空のグラス」といった物理的な比較をしている時でも、無意識に「どちらが好きか」を一瞬のうちに我々は判断しています。
ではその判断はどのように形成されているのでしょうか?

 マーケティングの世界では「単純接触効果」という言葉をよく耳にすると思います。繰り返し接触していくことで生まれる<親近性>と目新しさに感じる<新奇性>。これらを測ったある実験においては、例えば「顔」は一度選んだものを見れば見るほど好きになり「風景」は同じエレメントについては見飽きる傾向があるなど、カテゴリーにより異なる結果が得られているようです。
これらを応用すると、例えば中心テーマ(メインキャラクター)は毎回保って周辺情報は毎回変える、といったキャンペーン手法につながり、TVCMなどでの実践例もあります。

 そして<新奇性>と<親近性>は必ずしも同一軸上にあるものではなく、人間は新しく見たものにシックリくる親しみを覚えることもあります。この<親近性>は潜在的なもので、もっとはっきりとした「どこかで見たと感じる<再認性>」とは異なるものです。マーケティングにおいても人の好みにつながるこれらの要素を作り上げていくことが大切だと考えます。

測られる好み、そして後付けされる好み

 ここまでは学術的なお話をしてきましたので、少し実際の実験計測のお話もしようと思います。
好みを測るときによく使われる手法の一つとして視線の測定があります。例として「好きなウェディングドレスを決める」という実験を紹介しましょう。

 近く結婚する男女に「モデルがウェディングドレスを着用した写真」を二つ見せてドレスを選ばせ、その際の男女それぞれの視線を測定します。
すると男性はモデルの顔をまず見て好き嫌いを決め、女性は先にドレスを見て決めるといった測定結果がしばしば見受けられます。そしていずれも3秒とかからずにどちらが好きか意思決定をしていますが、選好決定時の視線のバイアスと照合すると、実は(ウェディングドレスに興味があると思われる)女性の被験者では「0秒コミュニケーション」の段階でどちらかに決めているのです(決まった後も視線は両方のサンプルを、自分の好みを確認するかのように見比べています)。
ここでは「好きな方を見る」→「見るから好きになる」→「見れば見るほど好きになる」といったサイクルが発生しているわけですが、見ている本人はそれを自覚していません。
ここで重要なのは視線の位置ではなく「どのように決めているか」というダイナミックな過程が視線の動きに反映されるという点です。それを綿密に調べることで、人が選択するものの予測や、個人差、さらには「本人も気づいていない」好みの測定も可能になってくると考えられます。

男女の視線

 好みとはもともと決められているかのように思えますが「考える時間」によって変わることもあります。

 被験者にAさん、Bさん2名の顔写真を見せて魅力的な方を指差してもらう、というテストを繰り返し行い、何度かに1度被験者が選んだ顔写真を手渡してその理由を問います。被験者は「こちら人の方が性格が良さそうだから」などと答えます。これを10回20回と繰り返す中で被験者が「指を差さなかった方(被験者がAさんを選んだのならばBさん)」の顔写真をカードトリックですり替えて手渡し、なぜBさんの方が魅力的なのか理由を問います。すると被験者は(たった今自分はAさんを選んだのに)Bさんを選んだ理由を述べることがあります。さらに多くの被験者は自分が矛盾した行動をしたことに気づきません。
被験者に、A、B、2種類のジャムを試食してもらいAが好きと答えた被験者に、直後にBのジャムを差し出して「あなたはこちらが好きなのですね?」と再度試食させる実験でも同様の結果が得られています。
1〜3割の被験者しか自分の選択を覚えておらず、多くの被験者が自己の意図を(時間的にさかのぼって)無意識に後付けしているのです。

「判断に先立つ意図という概念」が成り立たない例

 このように「判断に先立つ意図という概念」が成り立たない例は多々あり、その分析は「購買行動」「パートナー選び」「証言・自白」「集団的意思決定」などさまざまな動機・判断の解明に有効であると思います。

 直感、という言葉が多く用いられますが、直感とはさまざまな要因(今、自分がどこに属しているのかなど、主に外的要因)によって決まってくるものです。したがってマーケティングにおいては、人が「どのように」直感を形成したのかを科学の目で見るということがとても重要になると考えられます。

profile

渡邊 克巳 氏(わたなべ・かつみ)●米国National Institutes of Health、(独)産業技術総合研究所、東京大学 先端科学技術研究センターなどを経て、現在、早稲田大学 理工学術院教授。人間の心という主観的な現象に対して、認知科学、心理学、脳神経科学等の最先端の方法を使って研究を行っている。

(所属、役職は講演当時のものです)

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