FOCUS of LABOLIS

2015.05.20

【特集】感性アナライザが拓く新時代〜生体信号で読み解く、その時の気持ち〜

人は何かを体験した時、どんな気持ちになるのか。その「気持ち」を、脳波をはじめとする脳や体が発する様々な生体信号の解析よって解き明かしているのが、慶應義塾大学の満倉靖恵先生です。最新の研究成果と、企業とのコラボレーションなとについてお話をお伺いしました。

▼脳波によって計測できる指標
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<ゲストスピーカー>
慶應義塾大学理工学部 准教授
満倉靖恵

1999年、徳島大学工学部知能情報工学科助手。02年、岡山大学情報教育コース専任講師。05年、東京農業大学大学院助教授。07年、同大学院准教授となり、11年より慶應義塾大学理工学部准教授。生体信号処理、脳波解析、画像意味理解、印象解析などをキーワードに、マルチメディア信号処理や生体信号解析に関する研究を行っている。企業との共同研究・開発も多数。

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<聞き手>
トッパンフォームズ LABOLISグループ 主任
宇井剛史

東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。マーケティング部チーフアナリスト、満倉先生との共同研究チームリーダー。科学的なツールを駆使した生活者の行動と心理の分析を得意とする。

(所属・役職は執筆当時)

世の中にあるものはすべて「波」でできている

宇井:

満倉先生は生体信号の研究をされていますが、はじめに概要を教えてください。

満倉:

脳波だけでなく、目を動かした時の眼電や、体を動かした時の筋電など、人は頭や体を働かした時に 様々な生体信号を発します。ごく簡単にいうと、その生体信号を計測して、人がどんな気持ちでいるのかを 把握するのが現在の私の研究です。突き詰めていえば、「人を知る」研究ともいえますね。

宇井:

学究の道に入った時から生体信号の研究をされていたんですか?

満倉:

実は化学プラントなどの制御の研究がスタートだったんです。制御システムの解析をする時に装置の波形とずっとにらめっこをするのですが、「波」を見ているといろんなことが分かる。
音声にも周波数の波形があるし、画像を信号化すればやっぱり波になる。人の気持ちの変化やバイオリズムも波。
世の中にあるものすべてが、波でできているといってもいいくらいです。その波から意味のあるものを抽出すると、いままで見えなかったものが見えてくる。あ、これは面白いと、いつの間にか脳波などの生体信号の研究に行きついたというわけです。

周波数の組み合わせで人間の感性を読み解くことができる

宇井:

意外な出発点ですね。脳波では、アルファ波やベータ波があって、「集中するとアルファ波が出る」などといわれてきましたが、先生の研究はもっと進んでいて、周波数の組み合わせで、その時の気持ちや心理をより正確に把握することができるんですよね。

満倉:

はい。人間の脳波を周波数で表すと、だいたい0~30ヘルツの領域に収まります。アルファ波は4~7ヘルツの範囲とされていますが、調べると、集中している時にその周波数帯の脳波が出る人は20%にも満たなかったのです。実際には、集中している時には、特定の周波数の組み合わせになる。
「集中」以外も同様で、「好き」「嫌い」「満足」「快適」「ストレス」「リラックス」など、16の感情について周波数の組み合わせを明らかにすることができました。

宇井:

地道なデータ収集を繰り返されたそうですね。

満倉:

被験者が、30センチ離れたトレイの間で、小豆を箸ではさんで移動させるといった作業をひたすら 続けるわけです。最初はみんな集中していますが、ある一定の時間を過ぎると「ストレス」に変わる。それをずっと観察しながらデータを収集しました。「嫌」な状態をつくるために、計算が苦手な人にずっと計算を してもらったり、苦手な人と話す環境をつくったり。

宇井:

「嫌」と「ストレス」は感情としては微妙に重なる部分もあるのでは?

満倉:

おっしゃる通りです。ただ、「嫌」はいつまでたっても「嫌」で、「ストレス」は出る時もあれば出ない時もある。「好き」と「興味」も同様で、「好き」はずっと続きますが、「興味」はそのつど変わってしまう。それが脳波にはっきり表れます。

宇井:

先生のお話で、感情の定義づけが重要なことがよく分かりました。その点は、マーケティングにおいても重要な観点になりそうですね。

▼身のまわりの信号処理

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研究では生体信号、画像・音声の信号から特徴をとらえ、パターンを分類し、意味づけを行っている。一般に生体はマイクロボルトからミリボルトの電圧値、画像は0~255のRGB値、音声は20kHz~200kHzあたりのスケールの信号を扱う。これらを解析する研究は身のまわりの多くの製品と深く関わっている。
(『新版 窮理図解』(慶應義塾大学理工学部)掲載図をもとに作成)

ネガティブポイントを知りたがる日本、ポジティブポイントに注目する欧米

宇井:

ところで、先生がお持ちの、ノイズと必要な信号を完全に分けるシステムを活かして、非接触型の装置で脳波を計測できるセンサーを開発中とお伺いしましたが、それによってどんなことができるようになるのでしょうか?

満倉:

例えば、歩いている人の脳波データも取れるようになるので、GPSと連動させることによって、心地よい空間がどこかを定義することもできますね。

▼ヘアバンド型脳波計測器

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脳波を簡易に取得し、瞬時に解析し、オンラインで眠気を検出するシステム。
額につけたセンサーで左前頭葉のFP1と呼ばれる感情や感性を司る場所の状態を測定。測定器からスマートフォンに情報を送ることで、画面上に瞬時に取得している生のデータと計測結果が表示される。
(写真提供:慶應義塾大学)

宇井:

興味深い話ですね。そんなことができるようになると、店舗のバリアフリー化とか、空間設計などのビジネスに役立ちそうです。

満倉:

いろんな可能性を秘めていると思います。

宇井:

先生の研究は企業活動との親和性が高いと思いますが、脳波の解析がマーティングなどに与える影響や効果については、どうお考えですか?

満倉:

以前からある手法で、例えばアンケートやモニターの結果は、実施方法や環境によって大きくブレてしまいますが、脳波から導かれる感性をみることで、より深く正確に「人を知る」ことが可能です。大きな流れとしては、人を知ることによって、それを製品開発にフィードバックするケースと、販売やプロモーション戦略に反映させるケースがあります。
いろんな企業の担当者の方とお話をする機会がありますが、最近は 「嫌」「ストレス」など、ネガティブポイントがどこにあるかを知りたがる企業が多いですね。トッパンフォームズさんもそうですよね(笑)。

宇井:

はい。「嫌度」を計って帳票の記入不備改善に役立てようとしています。嫌な部分を排除して良くしようという考えですね。

満倉:

実はそれって、とても日本的な考え方なんですよね。相手の気持ちを損ねないようにする「おもてなし」の感覚からくるものでしょう。
欧米では逆に「好き」「楽しい」などのポジティブポイントを知りたがる傾向が強いんです。

「やみつきになる味」も原理的には周波数で推定できる

宇井:

最近の企業との共同研究について、差し支えない範囲でいくつか事例をお伺いできますでしょうか。

満倉:

eラーニングを、受講する人の精神状態に合わせてカスタマイズする研究があります。感情や満足度、快適度などの情報を人工知能に反映させて、受講者の「その時」の状況に合った最適な学習メニューがつくれるわけです。
それから、難しいとされる伝統技能の継承にも役立てられると思います。

宇井:

いろんな人の満足度や快適度がどんどん蓄積されるようになると、「場の空気」が読める人工知能もやがて誕生しそうですね。味覚の評価も脳波で可能と伺いましたが。

満倉:

以前、食品メーカーの方から「やみつきになる味はどういうものか知りたい」という相談を受けたことがありました(笑)。

宇井:

けっこうな無茶ぶりですね。

満倉:

でも、調べると面白い事実が分かったんです。味の感じ方は、人や文化によって幅がありますが、例えば「甘い」と感じた時の脳波を調べると、これはほぼ同じ。
だから、「やみつき」の定義さえきちんと設定すれば、「やみつきになる味」を見つけることも可能だと思います。
最近このような五感の定量評価に脳波を使うケースが増えていて、毎日のように企業からお問い合わせをいただくのですが、その中から新たな発見があったり、こちらも刺激されることが多いですね。

▼「その時」の気持ちは生体信号の「波」で分かる

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感性は美しさや心地よさなどを知覚する心の働きで、大半は脳内で無意識的、直感的に起きるとされる。満倉先生の研究室では脳波を「波」の生体信号に置き換え、リアルタイムに感性情報を読み取る研究を行っている。製品・商品開発、ライフログなどへの応用が期待されている。
(写真提供:慶應義塾大学)

感性を創造する研究で「元気スタンド」のある未来をつくりたい

宇井:

満倉先生は電通サイエンスジャムの CTO(最高技術責任者)でもいらっしゃいますが、同社での最新動向を少し教えてください。

満倉:

大きなトピックスとしては「感性アナライザ」が完成したことですね。これは「好き」「興味」「集中」「眠気」「ストレス」の 5つの感性を、脳波から簡易的に分析できるキットです。
いままでは大学の共同研究や共同開発プロジェクトでしか採用できなかった脳波解析アルゴリズムを搭載しています。このキットを使うことで、特にマーケティングでは、より簡便かつシンプルに脳波を利用できるはずです。

宇井:

興味深いお話ですね。では最後に、先生の研究の未来予想図をお聞かせください。

満倉:

研究者としての興味は「感性の創造」です。脳波は0~30ヘルツの周波数の組み合わせですが、外部からの刺激で特定の周波数をつくれば、付随する感性や心理状態を芽生えさせられるかもしれません。
例えばストレスを感じている人がいたとして、脳波が「好き」に振れるポイントが分かれば、その周波数をつくる装置にタッチするだけでチャージ完了!それだけで元気になれちゃう。

宇井:

クルマがガソリンスタンドで給油するように、人間に元気をチャージするわけですね。
仕事の生産性 向上やメンタルヘルス向上にもつながりそうです。

満倉:

触れるだけで、楽しく前向きな気持ちになれる なんていいじゃないですか。そんな「元気スタンド」の実現が、私の中ではいまもっともホットな関心事ですね。
実現にはもう少し時間はかかるかもしれませんが、期待していてください。

お話を終えて
気取らず飾らず。ずっと笑顔を絶やさない満倉先生のお話は、まさに「!」の連続。すべて興味深く伺いましたが、「非接触で脳波を計測できるシステム」というお話がもっとも印象に残りました。それが実現すれば、我々が事業を展開するうえでも大きなメリットがあり、今後のご活躍から目が離せません。
(宇井)

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