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2015.06.29

ビッグデータはセンスで分析する ーIBM XCITE SPRING 2015 トークセッションレポート

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ビッグデータ時代のデータサイエンティストにとって、データを分析する上で必要な能力とは何か。東京・高輪で2015年5月19日と20日の2日間にわたって行われた「IBM XCITE SPRING2015」。そこで開かれたトークセッション『今、マーケティングにとって必要なアナリティクスとは?』では、日本を代表するデータサイエンティストたちが、現場で培った分析手法や、日頃心掛けていることをつぶさに語り合った。

ファシリテーター

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清水 聰
慶應義塾大学商学部教授

1963年生まれ。86年慶應義塾大学商学部卒業。同大学博士課程、明治学院大学経済学部教授を経て、2009年現職に。専門は、消費者行動論、マーケティング戦略。消費者に関する理論をマーケティング戦略に応用する実践的なマーケティングの研究を行っている。日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、INFORMS(アメリカ・マーケティング・サイエンス学会)などに所属。

パネリスト

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渋谷直正
日本航空株式会社
旅客販売統括本部
Web販売部1to1マーケティンググループ
アシスタントマネジャー

2002年に日本航空に入社し、ホームページのログ解析や顧客情報分析を担当。購入率アップなどの成果と実績が評価され、2014年日経情報ストラテジーの「第2回 データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー」に選出された。

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神谷勇樹
株式会社すかいらーく
マーケティング本部
インサイト戦略グループ
ディレクター

プロジェクトスタートからわずか2カ月半でリリースし、プロモーション開始後7カ月で300万ダウンロードを達成したモバイルアプリ「ガストアプリ」の開発を主導し、大きな成果を上げている。

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宇井剛史
トッパン・フォームズ株式会社
営業統括本部 企画本部 マーケティング部
LABOLISコンサルティンググループマネージャー

企業と生活者のコミュニケーション課題を解決する「LABOLIS」の中心メンバー。生活者の行動と心理の分析を得意とする。

(所属・役職は講演当時)

データは関連性だけでなく、その背後まで理解する

清水:

消費者データの分析手法は、大きく二つに分かれます。一方が、マーケティング・サイエンスという、数字を見てデータを分析する手法。そしてもう一方が、心理学的に消費者行動を分析する手法です。最近、この二つの乖離が広がってきていて、ここを埋めることが重要なのではないか、ということがマーケティングの研究者の中で話されています。
そこで、データサイエンティストが分析した結果を、もう少し情緒的に翻訳することが必要になってくる。換言すれば機能的価値と情緒的価値ということになると思いますが、情緒的価値が欠落していると、効果的なマーケティングができない。実効性のあるマーケティングのためには、「どのようにデータを取り、どういうフラグ付け(条件設定)をしていくか」ということが重要になってきます。この点について、実務上で感じたことはありますか。

渋谷:

データサイエンティストというと技術者的な部分が注目されがちで、私も最初は数学的な部分ばかりで分析していました。しかしここ1年、そうではないと気付き始めました。私のいるWeb販売部は、Webデータを分析し、それを企画に活かし、売上が上がることではじめて効果が出たことになります。これまでは「分析してこういう結果が出たから、この人たちにはこのプロモーションを表示すれば絶対にウケるはず」と言っていましたが、それだけでなくバナーや表示しているページといったアウトプットのクリエイティブも重要でした。
あるプロジェクトに携わった際、社外の方から「きちんとペルソナ(ユーザーモデル)を作りましょう」と言われました。それまではペルソナというと芸術の世界というか右脳的な要素という気がして否定的でしたが、実はデータ分析を基にペルソナを作り、そのペルソナにウケるような企画を考えると、出てくる成果物も違ってきます。このときも効果は現れました。分析だけして数字をいじっていればいいのではなく、むしろ“お客様を想像する”という右脳的要素が重要ではないでしょうか。

神谷:

我々がこれまで分析していたPOSデータには、お客様の心理やなぜその商品を選ばれたのかという情報は入っていませんでした。データをそのまま使うだけでは、お客様が何を考えてこれを選んだのか、もしくはこれを選ばなかったのかは見えてきません。そこで我々は、メニュー一つひとつに素材や調理方法、味付け、料理に対するイメージなどの属性を付けました。すると、どのようなお客様が来店しているのかが明確に見えてきた。それを基に商品開発の方向性を変え、そしてフェアを開催すると販売数が2倍になりました。やはり、情緒的な部分まで踏み込んで分析することは重要だと感じています。

宇井:

ダイレクトメールの場合は、成功する要素は「リスト」「クリエイティブ」「オファー」「タイミング」の4つがあると言われています。データサイエンティストの仕事は、誰に送るのかを分析して決めることだと思われているのが普通だと思います。当社の場合は、クリエイティブ面をデザイナーに丸投げするのではなく、分析結果を基にデザインを考え、デザイナーにきちんと説明する。さらにお客様が納得する分析結果を出すことはもちろん、だからこうすればいいというストーリーまで考える。データ分析を行うマーケッターはここまですべきであり、重要だと考えています。

清水:

数字の中から関係性を見るだけではなく、その背後に何があるのかまで分かっていないと効果的な分析はできないということですね。

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腕が試されるフラグ付けには感性が必要

清水:

すると、やらなければいけないのは単に分析するだけではなく、フラグ付けということになる。私もデータを研究する者として、どのようにフラグを付けるかは悩みますが、フラグを付け、データを作り、加工していくという流れの中で、これまでに経験されたことを教えてください。

渋谷:

フラグの話は最重要ポイントだと考えています。データサイエンティストと呼ばれる人の腕が試されるのは、この「フラグ」=「いかに良い変数」を作り出すかにかかっています。よくビッグデータと言われますが、実は企業は皆さんが想像するほど個人に関するデータを持っていない。もちろん年代や性別、居住地といったデモグラフィックデータ(属性データ)はありますが、今やお客様の要望はそれだけではわかりません。ではどうするかというと、作り出すしかない。この作るときにデータサイエンティストとしての感性や腕が効いてきます。
例えば「価格に敏感なお客様をキャッチしたい、予測したい」というときに、低料金の<近距離路線を使っているフラグ>や同じリゾートでもハワイではなく<アジアンリゾートフラグ>といったものを作ります。このようなフラグは、元々我々のデータベースにはないので作り出すわけですが、いかに説明力のあるフラグを作っていくかがポイントになります。その際に、感性や芸術的部分が必要なのではと感じています。

神谷:

POSでも、やはり“無いデータ”は作りにいかなければならない。例えば免許証データの場合、生年月日や名前、住所はあるが、そこに「ゴールド」なのか「グリーン」なのかという要素が加わることで、料率(自動車保険)が変わってくる。しかし、ゴールドだから安全運転なのかは、実は分かりません。とても危険な運転をする人だが、ほとんど車に乗らないのでたまたま事故に遭っていないだけなのか、それとも本当に安全運転で事故に遭わない人なのか。これらは免許証のデータだけでは分かりません。だから、ドライブレコーダーや加速度計を利用して、どのような運転をする人が危ないかというデータを収集し、それをベースに判断する、という取り組みがなされているのだと理解しています。無限通りある中で、どのデータを選び、どういうメッシュ(データ収集する地理的範囲)でデータを取り、どう解析し、どうビジネスに活かしていくか。ここは腕が試される部分です。

宇井:

さらにプラスアルファで、人の元々持っている性格付けも、今あるデータの中でフラグ化=変数化できるのではないでしょうか。Webの生データが使える場合、その利用者はせっかちな人なのか、それとも細かいところまで見る人なのかなど、パーソナルな部分まで推定できます。ただし“せっかち”の定義はおそらくどこにもありません。分析する側が「せっかちな人はこのような行動をする」と知っているからこそ独自の定義付けが可能で、変数化もできます。だからこそ「人間はこういう行動をする」ということを常に考えながらフラグ付けすることを心掛け、さらに追求していきたいですね。

清水:

それぞれの企業のニーズに合わせて、いろいろと推測しながらフラグを作っていくこと、これが重要なんですね。

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データサイエンティストに求められるセンスとは

清水:

実際に、企業の中で皆さんがフラグ付けをしていて「こういうセンスが大事だ」と感じることはありますか。また、会社の中でデータサイエンティストに求められる能力とは、どのようなものだと思われますか。

渋谷:

目の前の問題を解決したい、という熱い想いを持っていることは、かなり重要です。でなければ、データを見ても解釈できないし、解読もできない。

清水:

センスはどうやって磨きましょう。

渋谷:

買い物が好き、というように自分がお客様の側に立つことで、磨かれていくのではないでしょうか。

神谷:

センスを磨くという意味では、やはり実際に外食することは大切です。それで太っちゃうんですが(笑)。これは冗談のようで、実はけっこう本質的な話です。「自分はメニューをどうやって選んでいるのだろうか」といった自分の思考回路を分析することは、お客様がどのように選んでいるかを想像する上で重要です。

宇井:

誤解を恐れずに言えば、データサイエンティストには「文系力」と「女性力」が必要ではないかと思います。もちろん、理系だからアウトプットが苦手とは一概には言えませんが、加減が分からず、精緻になりすぎるケースが多いのではないでしょうか。また、データサイエンティストといえども、社内調整やお客様への説明は必要です。当社の場合、データ分析担当者の6割は女性です。女性は細やかでアウトプットも丁寧に作れるので、“女性×文系”のデータサイエンティストが広まってもいいのではと思っています。

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日本らしいデータ分析は世界的にも進んでいる

清水:

いわゆるビッグデータには、POSの売上データだけでなく、Webの回遊やモバイルのデータもある。データの種類が増える中で、データの扱いや管理という部分で、海外にはない日本独自のものはありますか。

神谷:

昨年アメリカに行き、レストランチェーンのマーケティング担当者と話しましたが、モバイルアプリの活用はあまり行われていなかった。どこも、店舗検索やテイクアウトの注文、プリペイドカード機能程度です。送客や顧客理解という部分にはあまり使われていない。我々も実際にモバイルアプリを使って送客を行っていますが、これはかなり効果的です。外食産業でのモバイル利用は、日本が先端を進んでいるのではと感じています。

清水:

どうしてもマーケティングはアメリカが先行していると思われがちですが、アメリカより優れていると感じるところはありますか。

神谷:

モバイルの活用については、各国ともインターネット業界から進展します。インターネット業界から各業界のマーケティング部門にどれだけ人材が還流しているかという部分では、アメリカでもあまり進んでいない業界がある。最先端のIT技術を取り入れるという観点では、そういった人材が還流している日本には強みがあると思います。

清水:

ダイレクトマーケティング業界ではどうでしょうか。

宇井:

日本では、より細やかな表現に落とし込めています。例えば、海外では「Aさんと私たちが初めて出会ったのはいついつでした」といったように、まるで相手の過去を洗いざらい出すようなコミュニケーションが行われているようですが、それをそのまま日本で行っても日本人は違和感を覚える。対象者がパーソナライズされていることを意識することなく、その人にカスタマイズする分析力や表現力は、日本人の方が得意なのではと感じます。

清水:

すると、日本独自のDMの方法が発展する可能性があると。

宇井:

そういうものをどんどん普及させていきたいですね。

渋谷:

日本独自ではないかもしれませんが、いま我々が注目しているのはモバイルデータです。航空会社の場合は単価が比較的高いため、モバイルサイトに一度訪れただけで航空券を購入するケースは少なく、実際の購入はPCサイトでという人が多いのです。これまではモバイルサイトで何十万円もの決済は一般的ではなかったため、PCサイトの履歴データばかりを分析していました。最近はPCとモバイルの両方を使う人が増えてきているので、どちらの行動も観察しながらお客様におすすめしたいと考えています。

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データサイエンティストこそ行動すべき

清水:

データが増える中で、そのデータ量に応じて分析ツールは向上していき、分析する人のスキルも上がっている。そこで考えなければならないのは、実際にビジネスを動かそうとしている人たちはそれについていっていないという点です。それがギャップになっていると感じています。これは、マーケティング・サイエンスといわれるデータ分析ばかりしている人と、消費者行動論という分散分析ばかりしている人の間でギャップができ、結果、マーケティングではなくなってきているという話と似ています。
今回お話を伺い、いわゆるデータサイエンティストにとってビジネスに還元できるセンスを持っていることは重要であり、ビジネス側の人たちにも分析手法を理解する気持ちがないといけないということが分かってきました。データサイエンティストは、データをいじって楽しんでいるだけでなく、会話したり買い物に行ったりというように行動していかなければいけないのではないでしょうか。

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お問い合わせの後の流れ
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